匠の相駕籠

ソフトウェア開発者の日常とオピニオン - メメントモリ公式ブログ『匠の相駕籠(たくみのあいかご)』

休日の読書、科学のこと

 今日は奥さんと子どもたちが外出していたので、自宅で一日ゴロゴロしていたり、なんとなく本を読んだりして過ごしていました。気楽に読める本はないかなと思い、本棚の中に眠っていた『ザ・起業物語』(原題:Startup: A Silicon Valley Adventure)という本をひっぱりだして読んでました。

 

 タイトルはすごくダサいのですけど、ドットコムバブルのさなか、1990年初頭にシリコンバレーでマイクロソフトやアップルと激しい競争をおこなった GO という企業の創設と、事業破綻までの物語。

 

 スプレッドシートの市場を Excel が独占するまでは、ロータス 1-2-3 という製品がマーケットを支配していました。わたしは、ぎりぎりこのロータス 1-2-3 という言葉を聞いたことがあるという世代です。この本には、ロータス 1-2-3 を発案し、時代の寵児となったミッチェル・ケイパーも登場します。

 

 

 さて読んでて2つほど面白いエピソードがありまして、ひとつはこの本の主人公ジェリー・カプランが、3億円の資金調達をおこない会社を設立するくだり。

 

 わたしは、ベンチャーキャピタルが何を目的として資金を提供するのが、あまりよく理解していなかったのですが、ここにはきちんとその利害関係が書いてありました。一般的に起業家という人たちが何を目的として、起業を行い、なぜ IPO を目指さなければならないのかという理由も、詳しく説明されていました。

 

 なるほどなという思いで読みながら、わたしが会社を作るときに、どんな理由があっても投資を受けることは目指さないと思っていましたが、改めてこの思いは強くしましたし、間違ってなかったなと思いました。

 投資を受ける会社と、投資を受けない会社というのは、会社に求められるものがぜんぜん違うんだなと思いました。

 

 あとは読んでて、すごく文章が上手だなと思っていたんですけど、著者のジェリー・カプランは人工知能の博士号を取得していて、スタンフォード大学の研究員を勤めていた人物とのことで、そもそも地力がしっかりしてるんだなと思いました。

 

 猫も杓子も起業みたいな風潮は、いつの時代にもあると思いますが、そもそも非常にしっかりしたバックグラウンドをもっている人だって競争に入っているし、そういう人で構成されている奇跡的なチームであっても、成功するのはほんの一握りという世界なのですから、壮絶なものだな感じました。

 

 

 こんな偉そうなことを書いていますが、わたしはパジャマを着替えもせずに、コンビニで買った安物のアイスコーヒーを喉に流し込みながら、バネが飛び出そうになっている壊れかけのソファーに横たわって、この本を読んでいます。

 

 

 もうひとつ面白かったのは、プロローグでジェリー・カプランが博士論文の指導教授から、「科学」について教えをうけるシーン。

 

博士は壁にかかった時計を指差した。

「今何時だ」

「四時半です」

博士は壁のところへ歩いていき、時計を持って90度まわした。 

 

「さあ何時だ」。時計の針の方向が変わっている。

「七時四十五分」

「どうして。時計を回転しても、時間が進むわけはないだろう」

 

それはわかっている。しかし、博士が何を言おうとしているのかはわからなかった。

 

「いまは四時半だ。なぜかというと、この針の位置は四時半を意味すると誰かが決めたからだ。これは二本の針がある円盤に過ぎない。それなのに、これをみると時間がわかる」

 

「つまりこういうことだ。人間の知識というのは大きなモザイク画のようなもので、きみはいま、タイルが貼られたところと、まだ貼られていないところの境目に立っている。いまのいままで、人が考えてくれたアイデアとコンセプトにどっぷり浸かって生きてきた。

 

今度はきみの番だ。タイルを設計し、貼り付けなければならない。前に貼られたものと、ぴったり合う形にしなければいけない。きみがすばらしい形を作れば、次に新しいタイルを作る人の仕事が楽になる」

 

※一部、意訳、省略しています

 

 科学とは何かを、見事に例えているエピソードのような気がして、非常に感心した。「きみがすばらしい形のタイルを作れば、次の人が楽になる」そうやって、私たちは前に進んできたのだろう。